無職のインテリ青年が午後12時から夜中の2時まで京城(現在のソウル)の都心を練り歩くという内容。若者の鬱屈を基調としながらも、植民地都市の京城における様々な場所とそこでの過ごし方を通じて、孤独や悲哀、愛情、希望を描いています(元は1934年の新聞連載小説)。東京の回想場面として神保町、新宿武蔵野館、日比谷公園等が、また石川啄木の短歌、吉屋信子、芥川龍之介なども登場。この作品は、1930年代の京城やそこで生きる人々を、現代を生きる我々の眼前に彷彿とさせてくれます。「場所」とは?「近代」とは?「民族的アイデンティティ」とは?「人(家族、恋人、友人、権力者)との関係」とは?「生き甲斐」「仕事」とは?「文学」の果たしうる役割とは?この小説は、当時の京城の姿を克明に描きつつ、様々な切り口から人間が生きる意味を現代に生きる私たちに投げかけてくるようです。(山田佳子訳、朴泰遠ほか『小説家仇甫氏の一日』所収、平凡社、2006)
[作家について:朴泰遠は1909年ソウル生まれで、日本での留学経験もある。朝鮮戦争が起こった1950年に北朝鮮に渡り、1986年に平壌で没する。現在は平壌の愛国烈士陵に眠っている。【愛媛大学生協『学生にすすめる本2017』より再掲】
